
2025年、職場における熱中症による死傷者数は1,803人となり、統計開始以来最多となった。
業種別に見ると、運送業だけでも220人の死傷者が発生している。
これは、もはや「夏場は注意しましょう」で済む数字ではない。
物流現場にとって酷暑は、単なる季節リスクではない。
労災リスクであり、人手不足をさらに深刻にする離職リスクであり、
空調・冷却・待機環境の整備によるコスト上昇リスクでもある。
つまり、酷暑は現場だけの問題ではなく、経営課題になっている。
今年は、CLO、物流統括管理者の選任が本格化する「CLO元年」の夏でもある。
物流の効率化、荷待ち時間の短縮、荷役作業の改善、ドライバーの負荷軽減。これらは当然重要である。
しかし、その前提として忘れてはならないことがある。
それは、現場で働く人が安全に作業を続けられることだ。
物流現場では、暑いからといって仕事を完全に止めることは難しい。
荷物は届くものとして動き、出荷時間は決まっており、トラックは次々に入ってくる。
屋外バース、トラックヤード、コンテナ内作業、荷待ち、積み込み、ピッキング。
暑さの影響を受ける場面は、想像以上に多い。
問題は、熱中症対策が「個人の注意」に寄りすぎていることだ。
水を飲みましょう。
無理をしないようにしましょう。
体調が悪ければ申し出ましょう。
もちろん、これらは必要である。
しかし、忙しい現場では
「今、休憩していいのか」
「誰に報告すればいいのか」
「どこへ移動すればいいのか」
「代わりの作業者はどうするのか」
が曖昧なままになりやすい。
その曖昧さが、判断の遅れにつながる。
厚生労働省は、熱中症のおそれがある作業について、
早期発見の体制整備
重篤化を防ぐための手順作成
そして関係作業者への周知を求めている。
これはつまり、「気をつけましょう」ではなく、「発見する、報告する、止める、避難させる、引き継ぐ」
という流れを、現場で実際に動ける形にしておく必要があるということだ。
今年の夏、もし物流現場で酷暑による労災が起きたとき、経営は何と説明するのだろうか。
対策はしていました。注意喚起はしていました。水分補給は呼びかけていました。
それだけで、本当に十分だと言えるだろうか。
なぜ、その時間帯にその作業を続けていたのか。
なぜ、報告が遅れたのか。
なぜ、休憩場所まで移動できなかったのか。
なぜ、荷待ちのドライバーが炎天下にいたのか。
なぜ、現場管理者が判断に迷ったのか。
問われるのは、注意喚起の有無ではない。仕組みとして機能していたかどうかである。
CLO元年の夏に求められるのは、KPIだけを見る物流改善ではない。
効率化と安全を同時に成立させる現場設計である。
荷待ち時間を短くする。
荷役時間を短くする。
出荷精度を上げる。
納期を守る。
これらはすべて重要だ。
しかし、酷暑の中で現場に無理をかけ続ければ、労災、離職、作業品質の低下という形で、必ずどこかにひずみが出る。
「去年も乗り切った」は、今年の根拠にはならない。
気温の上昇、労働人口の減少、ドライバー不足、電力コストの上昇、そしてCLOに求められる責任。
物流現場を取り巻く環境は、すでに去年とは違っている。
酷暑対策は、夏になってから考えるものではない。事故が起きてから整えるものでもない。
現場で働く人が、迷わず報告できる。
無理をせず休める。管理者が判断できる。
ドライバーを炎天下に放置しない。
暑さの中でも、物流を止めない。
そのための仕組みを、いま整えておく必要がある。
CLO元年の夏。
物流現場は、酷暑を「天気の問題」として見るのか。
それとも、経営が向き合うべき「現場継続の問題」として見るのか。
今年の夏、その差は確実に現場に表れる。
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