
工場や物流倉庫を訪問すると、
床にはラインが引かれ、
壁には注意喚起の表示があり、
扉にはパウチされた案内が貼られています。
これらはすべて、現場を安全にするために
誰かが考えて設置したものです。
ところが私は、ときどき思います。
その表示、本当に役に立っているのでしょうか。
「設置した」という事実が、ゴールになっていないか。
例えば、
フォークリフトの交差点に
「一旦停止」という表示を付けた。
歩行帯を作った。
立入禁止の表示を付けた。
これで安全対策は完了。
……本当に、それでいいのでしょうか。
大切なのは、表示を付けたことではありません。
その表示によって、
人の行動が変わったのか。
迷いが減ったのか。
ヒヤリとする場面が減ったのか。
そこまで見なければ、
本当に効果があったのかは分かりません。
表示には「賞味期限」があるのかもしれません。
少し変な表現ですが、現場の表示にも
「賞味期限」のようなものがあると思っています。
もちろん、印刷が消えるという意味だけではありません。
最初は目立っていた表示でも、毎日見ているうちに
風景の一部になってしまうことがあります。
荷物の置き場所が変わる。
人の動線が変わる。
フォークリフトの走行ルートが変わる。
新しい設備が入る。
外国人スタッフが増える。
繁忙期になって作業量が増える。
そうすれば、昨日まで有効だった表示が、今日も最適とは限りません。
だから、「作る」だけでは足りない。
ここで#17の話につながります。
現場で必要な表示を自分たちで作れるようになった。
これは大きな一歩です。
しかし、私はそれだけでは
「次の内製化」にはならないと思っています。
必要なのは、
作る。
使う。
見る。
聞く。
変える。
この繰り返しです。
例えば、「止まれ」を作ったとします。
フォークリフトの交差点に、大きな「止まれ」を表示した。
そこで終わりではありません。
一週間後、実際にリフトに乗っている人に聞いてみる。
「見えていますか?」
「どのくらい手前で気づきますか?」
「文字の大きさはどうですか?」
「荷物を積んでいても見えますか?」
すると、こんな意見が出るかもしれません。
「もう少し手前にあった方がいい。」
「赤より黄色の方が、この場所では見やすい。」
「文字だけではなく、停止線もあった方がいい。」
「反対方向から来る人には見えにくい。」
だったら、変えてみればいい。
これができるのが、内製化の強さです。
外注で施工したものなら、
少し位置を変えるだけでも、
業者に連絡して、
見積もりを取って、
施工日を決める。
そうなると、「そこまでしなくてもいいか」となりやすい。
でも、自分たちで改善できるのであれば、
試してみることができます。
そして、ダメなら、また変えればいい。
私は、この「試せる」ことが、
内製化の非常に大きな価値だと思っています。
デジタルの世界では、当たり前にやっています。
ホームページを作ったら、アクセス数を見る。
広告を出したら、クリック率を見る。
システムを導入したら、利用状況を確認する。
数字を見て、問題があれば変更する。
そして、また結果を見る。
今では多くの企業が、こうした改善を当たり前に行っています。
いわゆるPDCAやDXも、考え方の根っこは似ています。
ところが、現場の安全表示になると、
なぜか、「設置して終了」になってしまうことがあります。
現場の表示だって、改善データになります。
難しいシステムを入れなくてもいいと思います。
例えば、
施工した日。
施工した場所。
表示の大きさ。
色。
文字。
ピクトグラム。
一か月後の状態。
三か月後の状態。
現場スタッフの意見。
ヒヤリハットの変化。
これだけでも、立派なデータです。
そして、
「この表示は効果があった」
「これは小さすぎた」
「この場所では黄色が見やすかった」
「このピクトグラムは外国人スタッフにも伝わった」
そんな情報が蓄積されていけば、次の改善に使えます。
それを一つの拠点だけで終わらせない。
ここが企業として非常に重要だと思います。
大阪の物流センターで、
効果の高い表示ができた。
その情報を、神戸でも試してみる。
神戸でさらに改善された。
それを東京でも使ってみる。
そして、また結果を共有する。
こうなれば、一つの現場の小さな気づきが、
会社全体の安全ノウハウになっていきます。
「安全表示」から「安全改善」へ。
これまでの安全対策では、何を貼るか。
どこにラインを引くか。
何色に塗るか。
そうした「施工」が中心だったように思います。
しかし、これから重要になるのは、施工した後です。
本当に見えているのか。
本当に伝わっているのか。
本当に行動が変わったのか。
そして、もっと良くできないのか。
これからの「わかる化」は、
表示物を作ることだけではないと思っています。
現場の変化に合わせて、表示も変え続ける。
そのために、
現場の声を聞き、
結果を残し、
改善を繰り返す。
改善した知識が、会社に残る。
人は異動します。
所長も変わります。
担当者も変わります。
しかし、改善した理由と結果が記録されていれば、
その知識は会社に残ります。
「あの所長が詳しかった」
「あの担当者がいなくなったから分からない」
ではなく、会社として安全対策の知識を蓄積できる。
ここまでできて初めて、
「内製化」が企業の力 になるのではないかと思っています。
作って終わりではない。
作る。使う。見る。聞く。変える。そして残す。
このサイクルを、現場自身が回していく。
それが、私が考える「次の内製化」です。
そして、その積み重ねが、
事故が起きてから対策する会社から、
事故が起きる前に、自分たちで変え続けられる会社へ。
変わっていく一つの方法ではないでしょうか。
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