
前回は、「注意指導は、なぜ現場の時間を奪うのか」
というお話をしました。
注意指導は、現場に必要です。
危険な行動があれば、声をかける。
ルール違反があれば、注意する。
事故を防ぐために指導する。
これは大切なことです。
しかし、同じ注意が何度も繰り返されているなら、
そこには別の問題が隠れているかもしれません。
人が悪いのか。
それとも、現場が分かりにくいのか。
ここを見直す必要があります。
今回考えたいのは、
現場で日常的に起きているもう一つの時間損失です。
それは、探す時間 です。
■ 道具を探す時間は、意外と多い
物流現場や工場では、
毎日たくさんの道具や備品が使われています。
台車。
ハンドリフト。
カッター。
ストレッチフィルム。
メジャー。
結束バンド。
養生材。
掃除道具。
安全備品。
検品用具。
筆記用具。
ラベルや伝票類。
一つひとつは、
それほど大きなものではないかもしれません。
しかし、必要な時に見つからないと、作業は止まります。
「あれ、どこにある?」
「誰か使ってる?」
「前はここにあったのに」
「別の場所に移動した?」
「誰に聞けば分かる?」
このような会話が、現場で起きていないでしょうか。
■ 探す時間は、作業の流れを止める
道具が見つからない。
すると、作業者は探し始めます。
棚を見る。
置き場を見る。
近くの人に聞く。
別の場所へ行く。
戻ってくる。
それでも見つからない。
この間、作業は進みません。
さらに、探している人だけでなく、
聞かれた人の時間も止まります。
「どこにありますか?」
「たぶん、あそこじゃない?」
「誰かが使っているかもしれない」
「〇〇さんに聞いてみて」
こうして、一つの探し物が、複数人の時間を使うことがあります。
つまり、探す時間は、
👉 本人だけでなく、周りの人の時間も奪う のです。
■ 使った人は困っていない
道具の置き場所が曖昧な現場で、
よく起きるのが「使った人」と「次に使う人」のズレです。
使った人は、その時に都合の良い場所へ置きます。
「あとで戻そう」
「ここに置いておけば分かるだろう」
「すぐ使うかもしれない」
「いつも誰かがここに置いている」
置いた本人は困っていません。
しかし、次に使う人は困ります。
どこにあるのか分からない。
誰が使っているのか分からない。
戻す場所が正しいのか分からない。
このズレが、探す時間を生んでいます。
■ 「元に戻してください」だけでは足りない
道具が散らかると、現場ではよくこう言われます。
「使ったら元に戻してください」
「決められた場所に戻してください」
「整理整頓を徹底してください」
もちろん、これは正しいルールです。
しかし、ここで考えるべきことがあります。
その「元の場所」は、
誰が見ても分かるようになっているでしょうか。
戻す場所が曖昧。
表示が小さい。
棚の区分が分かりにくい。
同じような道具が複数ある。
使う場所と戻す場所が遠い。
誰かが独自に場所を変えている。
この状態で、「元に戻してください」と言っても、
人によって戻す場所が変わってしまいます。
つまり、
戻すルールがあっても、戻す場所が分からなければ定着しないのです。
■ 道具の置き場所は、記憶に頼らない方がいい
ベテランは、道具の場所をよく知っています。
「あの棚の奥にある」
「これは事務所横に置いてある」
「予備は上の段にある」
「これは〇〇さんが管理している」
経験のある人にとっては、当たり前かもしれません。
しかし、新人や応援人員、パートさん、外国人スタッフには分かりません。
すると、結局ベテランに聞くことになります。
「これはどこですか?」
「あれはどこに戻せばいいですか?」
「この道具は使っていいですか?」
そのたびに、
ベテランの手が止まります。
ベテランの経験に頼ることは大切です。
しかし、ベテランの記憶だけに頼る現場は、
人が変わるとすぐに迷いが増えます。
■ 探す時間は、ミスにもつながる
道具が見つからないと、
人は別のもので代用しようとします。
本来使うべき道具がない。
似たような道具で作業する。
古いものを使う。
不安定な方法で対応する。
確認せずに進める。
これが、ミスや事故につながる可能性もあります。
例えば、
切る道具が見つからないから、無理な切り方をする。
台車がないから、手で運ぶ。
正しい備品がないから、仮のもので固定する。
清掃道具が見つからないから、清掃が後回しになる。
探す時間の問題は、
単なる効率の話だけではありません。
👉 安全や品質にも関わる問題 なのです。
■ 置き場所を見れば分かるようにする
では、どうすれば探す時間を減らせるのでしょうか。
答えはシンプルです。
👉 置き場所を、見れば分かるようにすること です。
例えば、
- 道具の名前を書く
- 写真を貼る
- シルエット表示にする
- 色で分類する
- 番号を付ける
- 棚ごとに用途を分ける
- 戻す位置を床や壁に表示する
- 空いていれば「ない」と分かる状態にする
重要なのは、説明されなくても分かることです。
「ここに戻す」
「これはこの棚」
「この台車はこの場所」
「この道具はこの作業用」
「使ったらこの位置へ戻す」
これが見れば分かれば、探す時間は減ります。
■ 戻す人のためにも、わかる化が必要
道具の置き場所を分かりやすくする目的は、
探す人のためだけではありません。
戻す人のためでもあります。
戻す場所がはっきりしていれば、
使った人も迷いません。
「どこに戻すんだろう」
「ここでいいかな」
「とりあえず置いておこう」
という曖昧な行動が減ります。
つまり、置き場所のわかる化は、
👉 探す人の時間を守り、戻す人の迷いも減らす のです。
■ 整理整頓ではなく、時間を守る仕組み
道具の置き場所の話をすると、
「整理整頓の話ですね」と思われるかもしれません。
もちろん、整理整頓でもあります。
しかし、それだけではありません。
本質は、現場の時間を守る仕組みです。
探さない。
聞かない。
迷わない。
間違った場所に戻さない。
次の人がすぐ使える。
この状態を作ることができれば、
現場の流れは安定します。
■ 道具の場所が決まると、会話も変わる
道具の置き場所が曖昧な現場では、
会話も後ろ向きになりがちです。
「またない」
「誰が持っていった?」
「ちゃんと戻してよ」
「前も言ったよね」
「探すだけで時間がかかる」
こうした会話が増えると、現場の空気も悪くなります。
一方で、置き場所が明確になれば、
こうした会話は減ります。
人に聞かなくても分かる。
探さなくても見つかる。
戻す場所も迷わない。
すると、現場の会話は、
探し物や注意ではなく、
作業や改善の話に変わっていきます。
■ 小さな改善でも効果は大きい
道具の置き場所を分かりやすくすることは、
大きな設備投資ではありません。
しかし、効果は小さくありません。
毎日使う道具。
よく探される備品。
戻し忘れが多い場所。
人によって置き場所が違うもの。
こうしたものから見直すだけでも、現場の時間は変わります。
例えば、一日に何度も探される道具があるなら、
それは改善対象です。
その道具の置き場所を明確にする。
戻す位置を表示する。
必要なら複数箇所に配置する。
誰が見ても分かるようにする。
これだけで、
毎日の小さな時間損失を減らせる可能性があります。
■ 次回予告
次回は、ベテランの経験について考えます。
ベテランは、現場の危ない場所や、
作業の流れ、道具の置き場所、
混雑する時間帯を経験で知っています。
しかし、その知識がベテランの頭の中だけにあると、
新人や応援人員には伝わりません。
次回は、「ベテランの経験を、現場の財産に変える“わかる化”」
をテーマに考えていきます。
■ 最後に
道具の置き場所が曖昧だと、
現場では探す時間が増えます。
探す人の時間。
聞かれる人の時間。
代用する時間。
戻す場所に迷う時間。
注意する時間。
これらはすべて、現場から奪われている時間です。
人手不足が進む中で、
現場の時間はますます貴重になります。
だからこそ、
道具や備品の置き場所も、
「分かる人には分かる」ではなく、
「誰が見ても分かる」状態にする必要があります。
探さなくても分かる。
聞かなくても分かる。
戻す場所に迷わない。
その積み重ねが、
現場の時間を守る“わかる化”になるのではないでしょうか。
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