
前回の#18では、作る。使う。見る。聞く。変える。そして残す。
そんな改善のサイクルについて書きました。
今回は、その「残す」の先について考えてみたいと思います。
ある拠点では、うまくいっている。
物流会社やメーカーの現場を訪問していると、
「これは現場で考えました」
という安全対策を見かけることがあります。
例えば、フォークリフトから見えやすい位置に停止表示を付けた。
荷物を置いてほしくない場所に、分かりやすい表示をした。
外国人スタッフにも伝わるように、文字だけでなくピクトグラムを入れた。
バースからの転落を防ぐために、立ち位置や危険箇所を表示した。
話を聞いてみると、
所長や安全担当者、現場スタッフが考えて工夫したものだったりします。
私は、こういう現場を見ると、
「この会社には、すでに良い知識がある」と思います。
ところが、少し気になることがあります。
その知識、隣の拠点は知っていますか?
大阪の拠点では、
フォークリフト事故を防ぐために、いろいろ試している。
ところが神戸では、そのことを知らない。
神戸では別の担当者が、
同じような問題について一から考えている。
東京では、また違う方法を探している。
場合によっては、
それぞれの拠点が別々の業者に相談し、
別々の商品を探し、
別々に見積もりを取り、
別々に失敗している。
全国に多くの拠点を持つ企業ほど、
こんなことが起きているのではないでしょうか。
「全国同じものを使う」という話ではありません。
ここは少し誤解されやすいところです。
会社全体で安全対策を考えるというと、
「では、全国で同じ表示に統一しましょう」
という話になりがちです。
私は、それが正解だとは思いません。
現場によって、建物の大きさも違います。
荷物も違います。
フォークリフトの台数も違います。
働く人も違います。
動線も違います。
照明も違います。
床の状態も違います。
同じ会社だからといって、
同じ表示を、同じ場所に、同じ大きさで付ければいいわけではありません。
統一するべきなのは、「表示」ではなく「知識」ではないか。
例えば大阪の拠点で、
「止まれ」の表示を作ったとします。
最初は小さかった。
しかし、フォークリフトの運転者から、
「荷物を積むと見えにくい」
という意見が出た。
そこで、表示を大きくした。
さらに位置を3メートル手前に変えてみた。
すると、以前より早く気づくようになった。
ここまで分かれば、
これは単なる「止まれ」のデザインではありません。
会社にとっての安全改善の知識です。
その情報を、他の拠点が使えるようにする。
例えば、
「フォークリフト交差点」
というテーマで、
どんな表示を作ったのか。
どこに設置したのか。
どのくらいの大きさだったのか。
どんな問題があったのか。
現場からどんな意見が出たのか。
どう変更したのか。
変更後はどうだったのか。
写真と一緒に残しておく。
そうすれば、
別の拠点で同じような課題が発生したとき、
ゼロから考える必要がありません。
「これを貼りなさい」ではなく、「これを参考にしてください」。
ここも重要だと思います。
本部が、「全国のフォークリフト交差点には、この表示を貼りなさい」
と指示する。
これでは、現場の条件に合わない可能性があります。
そうではなく、
「大阪では、こういう問題があり、こう改善した」
「神戸では、この大きさが見やすかった」
「東京では、この色では見えにくかった」
「外国人スタッフには、このピクトグラムが伝わりやすかった」
こうした情報を、
現場が自由に使える状態にしておく。
そして、自分たちの現場に合わせて変える。
私は、この方が現実的だと思います。
全国に100拠点あれば、100人が考えている。
考えてみれば、これは非常にもったいない話です。
全国に100の拠点があれば、それぞれの現場で、
誰かが毎日、
「ここ危ないな」
「こうした方がいいな」
「この表示、分かりにくいな」
と考えています。
つまり、100の現場が、毎日改善のヒントを生み出している。
ところが、その情報がその拠点だけで終われば、
会社にはほとんど残りません。
一つの現場の「気づき」を、会社の財産にする。
前回、安全表示にもDXと同じような考え方が必要ではないか、
という話をしました。
作って、使って、結果を見て、改善する。
そして今回、もう一つ加えたいと思います。
「共有する」ことです。
作る。使う。見る。聞く。変える。残す。
そして、共有する。
このサイクルが会社の中で回り始めれば、
一つの拠点の小さな改善が、他の拠点の事故を防ぐ可能性があります。
所長が変わっても、知識は残る。
現場には人事異動があります。
所長も変わります。
安全担当者も変わります。
ベテランスタッフも、いつか退職します。
その人の頭の中だけに、
「この場所は危ない」
「以前ここでヒヤリとした」
「だから、この表示に変えた」
という知識があれば、
人が変わったときに失われてしまいます。
だからこそ、改善した理由まで残す。
「何を作ったか」ではなく、「なぜそうしたのか」を残す。
これが重要だと思います。
内製化は、「自分たちで作る」だけではない。
私はこれまで、現場の内製化について書いてきました。
パソコンで作る。
複合機で印刷する。
パウチする。
床にテープを貼る。
ペンキを塗る。
これらも、もちろん内製化です。
しかし、これから必要になる内製化は、
もう少し先にあると思っています。
自分たちで考える。
自分たちで作る。
自分たちで試す。
自分たちで改善する。
そして、
その知識を会社に残す。
ここまでできれば、
安全対策は単なる「貼りもの」ではなくなります。
本部の役割も変わるのではないでしょうか。
本部がすべての商品を決め、
すべての表示を決め、
全国の現場に指示する。
それだけが安全管理ではないと思います。
各拠点で生まれた良い改善を集める。
他の拠点が使えるようにする。
うまくいった事例を残す。
失敗した事例も残す。
そして、必要であれば会社として標準化する。
現場の改善力を、本部がつなぐ。
そんな役割も必要になってくるのではないでしょうか。
事故が起きてから、全国で考え始めるのでは遅い。
事故が起きる。
本部から対策の指示が出る。
各拠点が方法を探す。
商品を探す。
見積もりを取る。
稟議を書く。
試してみる。
これでは、どうしても時間がかかります。
しかし、日頃から各現場の改善事例が蓄積されていれば、
「同じような危険がある」
と気づいた時点で、過去の知識を使えます。
事故が起きてから探す会社と、
事故が起きる前から知識を蓄えている会社。
この差は、これから大きくなるように思います。
安全対策は、一人の優秀な所長に任せるものでも、
一つの優秀な拠点だけが頑張るものでもありません。
現場で生まれた小さな気づきを、
改善して、残して、共有する。
そして、別の現場がさらに良くする。
一つの現場の改善を、会社全体の財産へ。
これが「次の内製化」のもう一つの大きな価値
だと思っています。
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