【本記事は、リチウムイオン電池火災の消火方法について、公的機関の資料を改めて確認し、内容の一部を2026年8月11日に修正しました。
当初(2026年1月)「水をかけてはいけない」と一律に表現していましたが、リチウムイオン電池火災では冷却が重要となる場合もあり、電池や設備の仕様によって対応が異なります。
そのため、メーカーの指示や消防設備の専門家などと事前に対応方法を決めておく、という内容に訂正しています。】

第1回〜第4回では、工場の構内表示が続かないのは努力不足ではなく、油・水・粉塵・清掃、そして工程停止の難しさといった「前提条件」の影響が大きい、という話をしてきました。

そして今、工場の前提条件そのものを変え始めているものがあります。

AGV、AMR、電動フォークリフトなどの普及によって増えている、リチウムイオン電池を使った設備です。

自動化は工場にとって大きなメリットがあります。

一方で、充電設備が増えるということは、これまでとは違う火災リスクについても考えておく必要があります。

私は消防やバッテリーの専門家ではありません。

ただ、表示やサインを扱う立場から考えても、これからの工場では

「充電場所を作って終わり」ではなく、

充電エリアそのものを安全設備の一部として考える必要があるのではないかと思っています。

リチウムイオン電池火災は、従来とは少し違う

リチウムイオン電池は、損傷、過熱、過充電などによって

「熱暴走」と呼ばれる状態に入ることがあります。

熱暴走が起きると、発火・爆発につながる可能性があり、可燃性ガスが放出されることもあります。また、一度火が消えたように見えても再燃する可能性があることが、米国消防局などからも指摘されています。

つまり、

「火を消したら終わり」とは限らない。

ここが、工場側であらかじめ考えておきたいポイントです。

充電設備を置く前に確認したいこと

まず「どんな表示を作るか」ではありません。

その場所の条件を整理するところから始めた方が良いと思います。

例えば、

  • どんなバッテリーを使っているのか
  • メーカーは異常時の対応をどう指定しているのか
  • 充電場所の周囲に段ボール、樹脂、油、溶剤などがないか
  • 発煙や異常発熱に気付ける環境になっているか
  • 異常があった場合に、誰が設備を停止するのか
  • 作業者はどこへ避難するのか
  • 消火設備は、その場所で想定される火災に合っているのか

OSHAも、リチウムイオン電池を使用する職場では、メーカーの保管・使用・充電・保守手順に

従うことや、異常時の対応計画を準備することを重視しています。

① 充電エリアを「置き場」にしない

私がまず重要だと思うのがここです。

充電場所の周辺に、

「ちょっとだけだから」

と段ボールやパレット、ウエスなどが置かれる。

工場では十分起こり得ることだと思います。

だから充電場所は、単にAGVを停める場所ではなく、

「ここには余計な物を置かないエリア」

として視覚的に固定する。

床面にクリアゾーンを表示したり、壁面に充電エリアであることを明示したりする方法が考えられます。

重要なのは距離を一律に決めることではありません。

バッテリーや設備の仕様、メーカーの指示、消防・安全担当者の判断などに合わせて、

その工場に必要な安全距離や区画を決め、それを現場で崩れない形にすることです。

② 「異常のサイン」を現場で共有する

リチウムイオン電池の異常には、事前に現れる可能性のある兆候があります。

米国消防局は、

  • 外装のひび割れなどの損傷
  • 膨らみ
  • パチパチ・シューというような異音
  • ガスの放出
  • 温度上昇

などを熱暴走や損傷の兆候として挙げています。

こうした情報を担当者だけが知っているのではなく、

充電設備の近くに「異常を感じたらどうするか」を簡単に表示する。

これも「見ればわかる化」の役割だと思います。

③ 「どう消すか」を現場判断にしない

ここは前回の文章から大きく訂正したい部分です。

リチウムイオン電池は、

「水をかけてはいけない電池」と一律に考えるのは正確ではありません。

NITEは小型のリチウムイオン電池搭載製品について、煙や炎が激しいときは近づかず、

安全を確保したうえで、対応可能な場合は消火器や大量の水による消火を案内しています。

米国の資料でも、リチウムイオン電池火災では十分な冷却が重要だとされています。

ただし、AGVや電動フォークリフトのような大型バッテリーについて、

「作業者がバケツの水をかければよい」

という意味ではありません。

電気設備、周囲の油・薬品、バッテリー容量、設備構造などによって状況は大きく変わります。

だからこそ、

「何を使って消火するか」を火災が起きてから現場で考えない。

メーカー、消防設備の専門家、安全担当者などと事前に決めておくことが重要です。

OSHAも、小規模なバッテリー火災の消火についてメーカーの指針に従うよう示しています。

④ パニック時に「読む」のではなく「動ける」表示にする

火災が起きて煙が出たとき、長い文章を読んでいる余裕はありません。

だから表示するなら、

異常発見

設備停止(安全に可能な場合)

周囲から離れる

責任者・消防へ連絡

指定場所へ避難

など、その工場で決めた初動を一目で理解できる形にする。

さらに避難方向や立入禁止エリアも、日常から見える状態にしておく。

表示の役割は「火を消すこと」ではありません。

人が間違った行動を取らないようにすること。

ここだと思います。

「設備が変わったら、安全の前提条件も変える」

AGVやAMRを導入すると、工場の生産性は変わります。

でも、その設備がリチウムイオン電池で動いているなら、充電設備だけではなく、

  • 充電場所
  • 周辺の可燃物
  • 異常検知
  • 消火設備
  • 初動
  • 避難
  • 表示

まで含めて、一度見直す必要があるのではないでしょうか。

OSHAも、新しい製造方法やエネルギー貯蔵技術を導入するときには、設備導入時から

安全を設計することが重要だとしています。

まとめ

工場の自動化が進めば、リチウムイオン電池を使用する設備はこれからも増えていくでしょう。

だから、

「便利な設備を導入した」だけで終わらない。

設備が変わったら、火災に対する前提条件も変える。

そして、そのルールを誰が見ても分かる状態にしておく。

これからの工場の「見ればわかる化」は、そんなところまで考える必要が

あるのではないかと思っています。

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