
前回は、メーカー系物流会社ほど、荷役現場のリスクが増えやすいのではないか、
という話を書きました。
メーカー系物流会社では、自社倉庫や工場隣接倉庫が多く、
荷物が増えたからといって簡単に広い倉庫へ移ることはできません。
生産量が変わる。
出荷量が変わる。
荷主から短納期を求められる。
営業部門が新しい仕事を取ってくる。
その変化を、今ある倉庫、今あるバース、今ある通路の中で受け止めなければなりません。
そのときに現場で起きやすいのが、
「とりあえず、ここに置いておく」 という仮置きです。
この仮置きが、実は事故の起点になっているのではないでしょうか。
仮置きは悪いことなのか
最初に言っておきたいのは、仮置きそのものが悪いわけではないということです。
物流現場では、仮置きが必要になる場面は必ずあります。
入荷した荷物を一時的に置く。
出荷順に並べる。
検品待ちの商品を分ける。
返品や不良品を隔離する。
次の便に積む荷物を準備する。
こうした作業のために、仮置きは必要です。
問題は、仮置きすることではありません。
問題は、仮置きする場所が曖昧になっていることです。
「少しだけ」の仮置きが日常になる
多くの現場では、最初から通路やバース前に荷物を置こうとしているわけではありません。
きっかけは、ほんの少しです。
「少しの間だけ」
「すぐ動かすから」
「今だけ置かせて」
「あとで片付けるから」
現場ではよくある判断です。
しかし、その日の作業が忙しければ、すぐには動かせません。
次の荷物が入ってきます。
次のトラックが来ます。
人が足りません。
リフトが空きません。
そうして、少しだけの仮置きが、その日の通常運用になります。
そして翌日も同じことが起きます。
気がつけば、
「ここは置いてもよい場所」 のように扱われてしまいます。
仮置きが動線を変えてしまう
仮置きが増えると、まず変わるのが動線です。
昨日まで人が歩いていた場所に、今日は荷物がある。
昨日までリフトが曲がっていた場所に、今日はパレットがある。
昨日まで見えていた交差点が、今日は荷物で見えない。
昨日まで待機できた場所が、今日は出荷準備品で埋まっている。
こうなると、現場の動きは大きく変わります。
しかし、作業者にその変化が十分に伝わっているとは限りません。
ベテランは気づきます。
いつもと違うことが分かります。
でも、新人、応援者、協力会社の作業者、外部ドライバーはどうでしょうか。
昨日と同じつもりで歩く。
いつもの通路だと思って進む。
見えている範囲だけで判断する。
その瞬間に、リフトとの接触や荷物との衝突が起きやすくなります。
仮置きは死角をつくる
仮置きの一番怖いところは、死角をつくることです。
パレット一枚。
段ボール数箱。
一時置きのカゴ台車。
それだけでも、視界は変わります。
特にフォークリフトに乗っている作業者から見ると、荷物の陰にいる人は見えにくくなります。
反対に、歩行者側から見ても、リフトの動きが見えにくくなります。
お互いに見えていない。
でも、お互いに「相手が分かっているはず」と思っている。
この状態が危険です。
事故は、特別な場所だけで起きるわけではありません。
仮置きによって、いつもの場所が急に危険な場所に変わることがあります。
バース前の仮置きは特に危ない
特に注意したいのが、バース前の仮置きです。
バース前は、荷物、人、リフト、トラックが集中する場所です。
出荷品を置く。
積み込み順に並べる。
ドライバーが確認する。
リフトが入る。
作業者が横を通る。
ただでさえ動きが複雑な場所です。
そこに仮置きが増えると、危険は一気に高まります。
バース端部が見えなくなる。
歩行者の逃げ場がなくなる。
リフトの旋回スペースが狭くなる。
トラックとの間に人が入りやすくなる。
荷物の陰から人が出てくる。
このような状態で、短時間で積み込みを終わらせようとすれば
事故が起きやすい条件がそろってしまいます。
非常口前・歩行帯・一時停止位置もふさがれる
仮置きが常態化すると、本来置いてはいけない場所にも荷物が置かれるようになります。
非常口前。
消火器前。
歩行帯。
リフトの一時停止位置。
交差点付近。
シャッター前。
充電エリア付近。
最初は「一時的」だったはずです。
しかし、忙しい現場では一時的が続きます。
その結果、本来の安全機能が失われます。
非常口が見えない。
歩行帯が歩けない。
停止位置が分からない。
消火器が取り出しにくい。
表示が荷物で隠れている。
これでは、いざというときに機能しません。
置き場が決まっていない現場は、判断が人に戻る
仮置き場所が明確でない現場では、作業者がその場で判断します。
ここなら置けるか。
少しなら大丈夫か。
リフトは通れるか。
人は避けられるか。
この判断を、毎回人が行うことになります。
しかし、判断する人によって基準は違います。
ベテランは避ける場所でも、新人は置いてしまうかもしれません。
現場責任者なら危険だと分かる場所でも、応援者には分からないかもしれません。
倉庫側の作業者は分かっていても、外部ドライバーには伝わっていないかもしれません。
つまり、置き場が曖昧な現場では、安全が人の経験に依存してしまうのです。
仮置き対策は「置くな」だけでは足りない
仮置きが危険だからといって、
「ここに置くな」 と注意するだけでは不十分です。
現場には、置かなければならない荷物があります。
出荷準備もあります。
検品待ちもあります。
一時保管もあります。
だから必要なのは、
「置くな」 ではなく、
「どこに置くのか」 を明確にすることです。
置いてよい場所。
置いてはいけない場所。
一時置きできる時間。
高さの制限。
通路との距離。
バース端部からの距離。
リフト旋回範囲との関係。
これらを、現場で見れば分かる状態にする必要があります
表示が消えると、ルールも消える
仮置きルールを決めても、現場で見えなければ意味がありません。
床にラインを引いても、リフトや台車の通行で消えていく。
テープを貼っても、剥がれる。
汚れて読めなくなる。
荷物で隠れる。
忙しくて貼り直す時間がない。
その結果、最初は明確だったルールが、少しずつ見えなくなります。
表示が消えると、ルールも現場から消えていきます。
そしてまた、
「そこに置いたらあかん」
「そこは通路やで」
「そこはリフトが曲がるから空けて」
という声かけに戻ってしまいます。
しかし、荷物が増え、人が増え、リフトの動きが速くなった現場で
声かけだけに頼り続けることには限界があります。
仮置きは、現場の状態を映す鏡
仮置きが多い現場は、単に片付いていない現場ではありません。
そこには、現場の負荷が表れています。
保管スペースが足りていない。
出荷準備が前倒しになっている。
荷待ち時間短縮のために、倉庫側の前工程が増えている。
荷量の波が大きい。
人員が足りない。
リフト動線と歩行者動線が整理しきれていない。
つまり仮置きは、現場の無理が見える場所なのです。
まとめ
仮置きは、物流現場に必要な作業です。
しかし、場所が曖昧な仮置きは、事故の起点になります。
通路をふさぐ。
死角をつくる。
バース前を狭くする。
リフトの動きを変える。
歩行者の動線を変える。
非常口や消火器を見えにくくする。
そして何より、現場の判断を人の経験に戻してしまいます。
荷物が増えた現場では、仮置きは避けられません。
だからこそ、置き場のルールを明確にし、
その場で見れば分かる状態にする必要があります。
「とりあえず置く」
が日常になったとき、事故の条件は静かにそろい始めます。
次回は、荷物の置き場だけでなく、人とリフトの交差が増える現場で、
なぜ歩行帯や待機位置の見直しが必要になるのかを考えます。
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