
前回は、荷待ち時間短縮の裏側で、倉庫側の作業負荷が増えているのではないか、
という話を書きました。
ドライバーの待ち時間を減らす。
バースに着いたら、短時間で積み込めるようにする。
そのために、倉庫側が事前に荷物を整理し、行き先ごとにパレットへ積み分け、積み込み準備を進める。
この取り組み自体は、物流全体で見れば必要な改善です。
しかし、その作業はどこかに消えたわけではありません。
ドライバー側で発生していた確認や積み込みの負荷が、倉庫側の前工程に移っているのです。
では、その負荷を受け止める倉庫側の現場は、十分な余裕を持っているのでしょうか。
特にメーカー系物流会社では、この問題がより深刻になりやすいと感じています。
メーカー系物流会社は、倉庫を簡単に変えられない
メーカー系物流会社の多くは、工場に隣接した倉庫や、自社物件の物流拠点を使っています。
これは大きな強みでもあります。
生産ラインと近い。
製品の流れが分かっている。
長年の運用ノウハウがある。
しかし一方で、弱点もあります。
それは、倉庫を簡単に移転できないことです。
賃貸倉庫であれば、物量が増えたときに、より広い倉庫へ移るという選択肢があります。
もちろん簡単ではありませんが、契約更新や拠点再編のタイミングで見直すことはできます。
しかしメーカー系物流会社の場合、工場との距離、生産ラインとの連携、
土地、建屋、設備、動線、バースの位置などが固定されています。
つまり、荷物が増えても、作業が増えても、基本的には今ある場所の中で
何とかしなければならないのです。
増えた作業を、同じ場所で吸収する現場
荷待ち時間を減らすために、倉庫側の事前作業が増える。
出荷先ごとにパレットを組む。
積み込み順に仮置きする。
バース前に荷物を寄せる。
ドライバー到着後、すぐ積めるように段取りする。
このような作業が増えれば、本来は作業スペースも必要です。
人員も必要です。
リフトの動線も必要です。
一時保管場所も必要です。
ところが、現場の広さは急には変えられません。
結果として、これまで余裕のあった通路やバース前、
歩行帯の近くに、仮置きの荷物が増えていきます。
最初は一時的なつもりでも、忙しい日が続けば、それが日常になってしまうことがあります。
仮置きは、現場の見通しを奪う
荷物の仮置きが増えると、まず起きるのが死角の増加です。
昨日は見えていた交差点が、今日はパレットの陰で見えない。
昨日は広かった通路が、今日はリフト一台分しか通れない。
昨日は人が待機できた場所が、今日は荷物で埋まっている。
このような状態になると、現場のルールは毎日のように変わります。
ベテランであれば、感覚で対応できるかもしれません。
しかし、新人、応援者、協力会社の作業者、外部ドライバーは違います。
昨日と今日で置き場が変わる。
通れる場所が変わる。
リフトの動きが変わる。
これでは、現場に慣れていない人ほど危険に近づきやすくなります。
リフトの動きは、さらに速くなる
荷待ち時間を減らすためには、バースにトラックが着いてからの
作業時間を短くしなければなりません。
そのため、フォークリフト作業にもスピードが求められます。
積み込み順に並べた荷物を、短時間で運ぶ。
バース前に寄せた荷物を、次々と積み込む。
次のトラックが来る前に、空いたスペースを片付ける。
こうなると、リフトの動きは速くなり、回数も増えます。
人が増え、荷物が増え、リフトの動きが速くなる。
その一方で、現場のスペースは変わらない。
ここに、接触事故のリスクが生まれます。
自社倉庫だからこそ、慣れに頼りやすい
メーカー系物流会社の現場には、長く働いている人が多い場合があります。
これは強みです。
現場の流れを理解している。
荷物の特徴を知っている。
どの時間帯が混むか分かっている。
しかし、強みである一方で、慣れに頼りすぎる危険もあります。
「あの場所は一時置きしても大丈夫」
「この時間帯はリフトが通る」
「そこは立たない方がいい」
こうした判断が、熟練者の頭の中だけにある場合です。
熟練者には当たり前でも、初めて来た人には分かりません。
応援者には分かりません。
外部ドライバーには分かりません。
にもかかわらず、現場が熟練者の声かけで回っているとしたら、
荷量が増えたときに限界が来ます。
「広げられない現場」は、使い方を変えるしかない
メーカー系物流会社では、倉庫をすぐに広げることは簡単ではありません。
バースを増やすことも、通路幅を変えることも、建屋を移すことも、すぐにはできません。
では、どうするのか。
今ある現場の使い方を変えるしかありません。
どこに置くのか。
どこに置いてはいけないのか。
どこを歩くのか。
どこで待つのか。
どこでリフトと人が交差するのか。
どこから先は立入禁止なのか。
こうしたルールを、改めて現場に落とし込む必要があります。
掲示板に書いてあるだけでは足りない
多くの現場では、ルールはあります。
安全通路もあります。
注意喚起もあります。
掲示板にも書いてあります。
しかし、忙しい現場で本当に必要なのは、
作業者がその場所に来た瞬間に判断できることです。
ここは歩く場所。
ここは荷物を置いてはいけない場所。
ここはリフトが曲がってくる場所。
ここはバース端部。
ここは待機場所。
ここは一時停止する場所。
これらが、現場に来た人にその場で伝わる状態になっているか。
そこが重要です。
ルールがあることと、現場で迷わず動けることは違います。
変化した荷役に、現場表示は追いついているか
荷待ち時間短縮によって、倉庫側の前工程が増える。
出荷先ごとの仕分けが増える。
仮置きが増える。
リフトの動きが増える。
人が増える。
そうした変化が起きているにもかかわらず、現場の表示や動線が
昔のままだとしたら、現場は無理をしていることになります。
床のラインが薄くなっている。
テープが剥がれている。
荷物で表示が隠れている。
一時置きが常態化している。
バース前の待機位置が曖昧になっている。
その状態で、「注意して作業してください」と言っても、現場は守りきれません。
メーカー系物流会社に必要な視点
メーカー系物流会社に必要なのは、単に広い倉庫へ移ることではありません。
今ある現場を、どう安全に使い続けるかです。
生産量が増えたとき。
出荷量が変動したとき。
荷主から短納期を求められたとき。
営業部門が新しい仕事を取ってきたとき。
現場は、その変化を受け止めなければなりません。
だからこそ、今のうちに現場のルールを見直す必要があります。
荷物が増えてからでは遅いのです。
人が増えてからでは遅いのです。
リフトが忙しくなってからでは、現場に余裕がありません。
まとめ
荷待ち時間を減らすことは必要です。
ドライバーの労働環境を改善することも重要です。
しかし、そのために増えた作業が倉庫側に移り、今ある現場の中に
押し込まれているとしたら、別のリスクが生まれます。
特にメーカー系物流会社では、自社倉庫や工場隣接倉庫が多く、
場所を簡単に変えることができません。
だからこそ、今ある現場の使い方が問われます。
ルールがあるかどうかではありません。
そのルールが、現場で見ればわかる状態になっているか。
荷物が増えても、人が増えても、リフトの動きが増えても、
迷わず動ける現場になっているか。
そこを見直すことが、これからのメーカー系物流会社にとって
重要な安全対策になるのではないでしょうか。
次回は、荷物の増減によって現場の動線が毎日のように変わる中で、
なぜ「仮置き」が事故の起点になりやすいのかについて考えます。
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