
アメリカ・ロサンゼルスで発生した大規模な冷蔵倉庫火災。
そして、日本で発表されたニチレイグループへの不正アクセスによるシステム障害。
一方は火災。
もう一方は、サイバー攻撃によるシステム障害です。
原因も、発生場所も、事故の性質も違います。
まず前提として、今回のニチレイグループの件を、現場の安全管理が不十分だった
という意味で取り上げるものではありません。
ニチレイグループは、冷凍・冷蔵物流を支える国内有数の企業グループであり、
労働安全衛生や職場環境の改善にも継続的に取り組んでいる企業です。
だからこそ、今回のニュースは特定の企業の問題として見るよりも、冷凍・冷蔵倉庫が高度に
システム化されている時代に、どの企業にも起こり得る課題として考えるべきではないでしょうか。
高い管理体制を持つ企業であっても、システム障害やサイバー攻撃によって通常の現場運用が揺らぐ可能性はあります。
同じように、ロサンゼルスで発生した大規模冷蔵倉庫火災も、海外の特殊な事故として片づけるべきではないように感じます。
この2つのニュースは、冷凍・冷蔵倉庫を運営する立場から見ると、同じ問いを投げかけています。
それは、
「倉庫が止まった時、現場は人の判断で動けるのか」
という問いです。
冷凍・冷蔵倉庫は、食品や温度管理が必要な商品を守るための重要な社会インフラです。
だからこそ、止まらないためのシステム、止まらないための設備、止まらないための管理体制が必要になります。
しかし、どれだけ備えていても、火災やシステム障害、停電、設備トラブルなどにより、
現場が通常通りに動けなくなる可能性はあります。
その時に問われるのは、システムだけではありません。
現場が、どこまで人の判断で動ける状態になっているかです。
冷凍・冷蔵倉庫は、止まることが許されにくい現場
冷凍・冷蔵倉庫は、食品や温度管理が必要な商品を守るために欠かせない施設です。
冷凍食品。
輸入冷凍品。
外食・中食向けの商品。
食品EC。
温度管理が必要な原材料や製品。
これらは、決められた温度で保管され、決められたタイミングで出荷されることで品質が守られています。
だからこそ、冷凍・冷蔵倉庫は、止まることが許されにくい現場です。
しかし現実には、止まる可能性はあります。
火災で止まることがあります。
システム障害で止まることがあります。
停電で止まることがあります。
設備トラブルで止まることがあります。
サイバー攻撃で止まることもあります。
今回のロサンゼルス倉庫火災とニチレイ不正アクセスは、
そのことを改めて示しているように感じます。
冷凍・冷蔵倉庫は、止めない努力が必要です。
しかし同時に、止まった時にどう動くかも考えておく必要があります。
火災でも、システム障害でも、最後に混乱するのは現場
火災が起きれば、通常の入出庫は止まります。
システム障害が起きても、通常の入出庫は止まります。
理由は違っても、現場で起きることは似ています。
車両が待つ。
荷物が動かせない。
作業の優先順位が分からなくなる。
仮置きが増える。
責任者に判断が集中する。
外部業者やドライバーへの説明が増える。
通常の動線が使えなくなる。
つまり、火災もシステム障害も、最終的には現場の動線と判断の問題になります。
画面上のトラブルであっても、最後は床の上で混乱が起きます。
バース前で車両が滞留する。
通路に荷物が一時置きされる。
歩行帯に台車やパレットがはみ出す。
防火シャッターの下に荷物が置かれる。
非常口や消火器の前がふさがる。
フォークリフトと歩行者の動線が交差する。
事故や障害は、発生した場所だけで終わりません。
現場全体の動きを変えてしまいます。
ニチレイ不正アクセスで見えた、冷蔵倉庫とシステムの関係
ニチレイは、不正アクセスによるシステム障害が発生し、ニチレイロジグループ各社の冷蔵倉庫の入出庫業務と、
ニチレイフーズの冷凍食品出荷業務に影響が出ていることを発表しました。
これは、今の冷凍・冷蔵倉庫が、いかにシステムと密接につながっているかを示しています。
今の倉庫では、入庫予定、在庫ロケーション、出庫指示、賞味期限管理、温度帯管理、検品、配送手配、バース運用など、
多くの業務がシステムとつながっています。
システムが動いている時は、現場はそれに従って正確に動くことができます。
しかし、システムが止まった時はどうでしょうか。
どの荷物を出すのか。
どこに荷物があるのか。
どの出荷を優先するのか。
どの車両を先に受け入れるのか。
どのバースを使うのか。
どこに一時的に荷物を置くのか。
普段はシステムが示してくれていた判断を、人が行わなければならなくなります。
システム障害は、IT部門だけの問題ではありません。
現場の判断力を試す出来事でもあるのです。
ロサンゼルス倉庫火災で見えた、火災後の難しさ
一方、ロサンゼルスの冷蔵倉庫火災では、火災そのものだけでなく、火が収まった後の対応も大きな問題になっています。
大規模な倉庫火災では、消火して終わりではありません。
建物の安全確認。
危険箇所の管理。
保管物の撤去。
廃棄物の搬出。
煙や臭気への対応。
周辺住民への説明。
調査関係者の出入り。
業者や車両の動線確保。
火が収まった後も、倉庫がすぐに通常の物流現場へ戻るわけではありません。
火災の規模によっては、その建物を継続して使用できない場合もあります。
一方で、被害が一部にとどまり、継続使用や部分的な復旧が可能な場合でも、
現場は通常時とはまったく違う状態になります。
通常の入出庫動線が使えない。
いつものバースが使えない。
いつもの置き場が使えない。
外部業者や行政関係者が出入りする。
立入禁止エリアが増える。
一時的な荷物置き場や廃棄物置き場が必要になる。
その時に、現場に一時的なルールが見えていなければ、火災後の現場もまた混乱します。
つまり、火災後に問われるのは、建物を使うか使わないかだけではありません。
普段とは違う現場ルールを、どれだけ早く、どれだけ正確に、関係者へ伝えられるかです。
冷凍・冷蔵倉庫では、遅れが品質に直結する
常温倉庫でも、火災やシステム障害は大きな問題です。
しかし、冷凍・冷蔵倉庫では、さらに厳しい問題になります。
なぜなら、時間の遅れが品質に直結するからです。
出荷が遅れる。
入庫が詰まる。
トラックが待機する。
バースが混雑する。
扉の開閉時間が長くなる。
確認作業が増える。
積み替えが増える。
仮置きが増える。
この一つひとつが、温度管理や品質管理に影響する可能性があります。
もちろん、今回のニチレイの件で、冷却設備そのものに影響が出たと断定することはできません。
しかし、冷凍・冷蔵倉庫では、入出庫の混乱そのものが、品質を守る現場運用に影響を与えます。
冷凍食品は、ただ倉庫に置いておけばよい商品ではありません。
決められた温度で保管され、決められたタイミングで出荷され、
決められた場所へ届けられることで品質が守られています。
だからこそ、止まった時の現場設計が必要になります。
「とりあえずここに置く」が一番危ない
システムが止まった時。
火災後に通常とは違う対応が必要になった時。
現場では一時的な判断が増えます。
「とりあえずここに置く」
「あとで動かす」
「今だけだから」
「急ぎだから」
「ここしか空いていないから」
この判断が増えると、現場の安全は一気に崩れます。
歩行帯に荷物がはみ出す。
防火シャッターの下に仮置きされる。
非常口の前に台車が置かれる。
消火器の前がふさがる。
バースまわりに車両と人が集中する。
フォークリフトと歩行者の動線が交差する。
平常時には守れていたルールでも、非常時や障害時には崩れやすくなります。
だからこそ、止まった時のルールを事前に決め、現場に見える形で共有しておく必要があります。
20年前の手作業に戻れるのか
ここで考えたいことがあります。
今の倉庫は、システムが止まった時に、20年前の手作業に戻れるのでしょうか。
紙で管理する。
電話で確認する。
現場を歩いて探す。
責任者が判断する。
手書きで記録する。
一見すると、昔のやり方に戻れば何とかなるように思えます。
しかし、今の冷凍・冷蔵倉庫は20年前とは違います。
保管量が違います。
荷主の数が違います。
商品数が違います。
温度帯が違います。
納品時間の厳しさが違います。
人員構成が違います。
外部業者の出入りも違います。
自動化設備も増えています。
現場が複雑になっているのに、非常時だけ昔のやり方に戻る。
それは簡単なことではありません。
だからこそ、システム停止時、火災時、火災後の対応時の
ルールを、普段から現場で確認できる状態にしておく必要があります。
ルールは画面の中だけに置いてはいけない
普段、システムが動いている時は、ルールの多くが画面の中にあります。
どの商品を出すか。
どこにあるか。
どこへ運ぶか。
いつ出すか。
どの車両に積むか。
画面の中の指示に従えば、現場は動きます。
しかし、システムが止まった時、その画面は使えません。
その時に必要なのは、現場に残っているルールです。
歩行者通路。
フォークリフト動線。
仮置き禁止エリア。
非常口前の空間。
防火シャッター下の禁止表示。
消火器前の確保表示。
バース待機位置。
ドライバー待機場所。
緊急時の受付場所。
優先出荷品の一時置き場。
火災後の対応車両の動線。
外部業者の作業エリア。
これらが現場で確認できれば、止まった時でも人は動きやすくなります。
反対に、ルールが画面の中にしかなければ、システム停止時に現場は迷います。
デジタル化が進むほど、アナログの現場設計が必要になる
今回のニュースから考えるべきことは、システムを否定することではありません。
デジタル化は必要です。
システム化も必要です。
冷凍・冷蔵倉庫では、温度管理や在庫管理の高度化は避けられません。
しかし、どれだけデジタル化が進んでも、システムが止まる可能性はゼロにはなりません。
火災が起きる可能性もゼロにはなりません。
だからこそ、必要になるのがアナログの現場設計です。
ここで言うアナログとは、古いやり方に戻ることではありません。
人が見て、すぐに判断できること。
ルールが現場に見えていること。
緊急時の動線が分かること。
仮置きしてよい場所、してはいけない場所が分かること。
外部の人にも伝わること。
口頭で説明しなくても、行動が揃いやすいこと。
つまり、システムが止まっても、火災で現場が変わっても、人が迷わず動ける現場をつくることです。
冷凍・冷蔵倉庫に必要なのは、“止まった時”の現場設計
ロサンゼルスの倉庫火災と、ニチレイの不正アクセスによるシステム障害。
この2つのニュースは、冷凍・冷蔵倉庫に共通する大きな課題を示しているように感じます。
それは、倉庫が止まった時の現場設計です。
火災で止まることもあります。
システム障害で止まることもあります。
設備トラブルで止まることもあります。
停電で止まることもあります。
その時に、どこに荷物を置くのか。
どこを空けておくのか。
どこを歩くのか。
どこに車両を待機させるのか。
どこから外部業者を入れるのか。
どこから先を立入禁止にするのか。
誰が見ても同じ判断ができるのか。
ここまで現場に組み込まれていなければ、非常時や障害時の混乱は大きくなります。
これからの冷凍・冷蔵倉庫には、止まらないためのシステムだけでなく、
止まった時に人が迷わず動ける現場設計が必要です。
デジタルで管理する。
アナログで現場に浸透させる。
その両方があって初めて、冷凍・冷蔵倉庫の安全と継続性は守られるのではないでしょうか。
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