■ 求人広告に多額の費用をかけても、人は定着しない

物流業界では、慢性的な人手不足を背景に、求人広告費が年々増加しています。
特に300名以上の規模で倉庫運営を行っている企業では、繁忙期ごとに数百万円単位の広告費を投じるケースも珍しくありません。

しかし、実際にはどうでしょうか。
せっかく採用した人が3ヶ月も経たずに辞めてしまい、同じ広告を何度も出し直す。

そんな“採用の繰り返し”が当たり前になっている現場もあるのではないでしょうか。

つまり、採用コストはかけているのに、人材が職場に定着していない

ここに大きな「ムダ」が潜んでいるのです。

■ 離職の本当のコストは「求人費」だけではない

離職の影響は、求人広告費の出費だけにとどまりません。

実は、見えにくいコストが企業経営に深く影響しています。

・教育コストの損失
 研修やOJTに時間と人手をかけても、早期退職でその投資が回収できない。

・現場生産性の低下
 人が安定しないことで、日々の業務の流れが乱れ、熟練者の負担が増える。

・安全リスクの増大
 経験の浅いスタッフ
が多い状態では、ヒヤリハットや事故の発生リスクも高くなる。

・採用現場の疲弊
 人事・総務部門、現場リーダーが常に採用対応に追われ、本来の業務に集中できなくなる。

これらはすべて、目に見える「求人費」以上に、企業の競争力をじわじわと削っていくコストです。

■ 本音と建前の“離職理由ギャップ”

離職の背景には、企業が把握している「表向きの理由」と、現場で感じている「本音」の間にギャップがあることも見逃せません。

F物流コンサルタントの調査によると、会社に報告された離職理由のうち 約23% は「結婚など家庭の事情」でした。
一方、本音を聞き出すアンケートでは、25%が人間関係を理由に離職したと回答しています。
つまり、4人に1人が「人との関係」を辞める理由に挙げているということです。

■ 人間関係がうまくいかない、現場のリアル

では、なぜ人間関係が離職のきっかけになってしまうのでしょうか。
現場では、次のような声が少なくありません。

・「研修で聞いたことと現場が違う」

・「わからないことがあればいつでも声かけて、と言われたのに、質問したら機嫌が悪そうだった」

・「どの質問を誰にしたら良いのかわからない」

・「同じことをしていても、なぜか私だけ注意される」

・「そもそも、そんなルール聞いてない」

こうした“すれ違い”は、一つひとつは些細なことに見えるかもしれません。
しかし、新人や中途入社者にとっては、毎日の小さな不安と不信の積み重ねとなり、職場に居場所を感じられなくなる引き金になってしまいます。
制度や設備だけでは埋めきれない「人と人の関係性」こそが、離職の大きな要因の一つなのです。

■ 原因は「職場が続かない構造」にあるのでは?

離職が続く企業では、「採用しても続かない」状態が構造化してしまっているケースがあります。
例えば――

・現場に入ってみると想像以上に危険で、不安が拭えない

・ルールが分かりにくく、叱責が多い環境

・周囲とのコミュニケーションが取りにくく、孤立してしまう

こうした背景があるまま求人を続けても、採用→早期退職→再募集…という悪循環から抜け出すことはできません。

■ 「人が続く職場」への投資こそが、最も効果的なコスト対策

求人広告費を削ること自体が目的ではありません。
大切なのは、“人が続く職場”をつくることで、結果的に採用コストを減らし、現場の安定を実現することです。

たとえば、

サインや表示で「危険・禁止・やるべきこと」が明確に見える現場

・新人が不安なく動ける仕組みが整っている職場

・現場スタッフ同士が自然に声を掛け合える雰囲気

こうした環境があれば、採用した人が早期に辞めるリスクは大幅に下がります。
人が定着すれば、教育コストは積み上がり、熟練度は増し、事故リスクも低下。結果的に、企業全体のコスト構造は改善していくのです。

■ まとめ

離職率の高さは、単なる「人手不足」の問題ではなく、企業のコスト構造そのものに直結する課題です。
求人広告に費用をかけ続ける前に、まず考えるべきは――
「なぜ人が続かないのか」
「職場が人を育てる構造になっているのか」

この問いに向き合うことこそが、真のコスト削減と企業力強化の第一歩になるのではないでしょうか。