物流倉庫や工場など、高低差のある施設では階段の昇降は避けられません。
実際、階段での転倒事故や踏み外しによる労災は、毎年少なくない件数が報告されています。
そこで注目されるのが、「踏み板に1段目・2段目…と数字を入れる」視覚化の工夫。
果たしてこれは、労働災害の予防に効果があるのでしょうか?
■ 数字マーキング自体のデータは未整備、だが…
現在のところ、日本国内では「段数表示が転倒防止に有効である」とする定量的な実証データは存在していません。
労災統計や安全対策資料でも、「数字表示」単独での評価は明記されていないのが現状です。
しかし、「段差や階段に視覚的マーカーをつけることが有効」という研究は多数あります。
✅ 研究に裏づけられた“視覚化”の効果 「英国リバプール大学の研究」
階段全体を色分けし、踏み面のエッジをハイライトすることで、
- 使用者の不安感が低下
- 踏み板に視線が集中
- 足運びが安定し、転倒リスクが低減
という結果が得られました。
■ 横縦錯視(horizontal–vertical illusion)を活用した表示
縞模様やエッジ強調により、踏み外しやつまづきのリスクを回避することができると実証されています。
「段数の数字を入れる」ことも、同様に視覚的注意を高め、ステップに意識を向ける効果が期待されます。
⚠ 併用対策がカギ
数字マーキングはそれ単体で万能ではありません。
厚生労働省や労働局が示す安全対策では、以下の対策が推奨されています。
推奨対策 | 内容 |
✅ 滑り止めテープ | 踏み板に滑り止め加工を施す |
✅ 手すりの設置と周知 | 両側または片側にしっかりと手すりを設ける |
✅ 照明の確保 | 明るさを保ち、影や段差が見えにくくならないようにする |
数字表示も、こうした物理的・環境的対策と組み合わせてこそ、本来の効果を発揮します。
🧭 実施するならこうすべき
- 目立つ色・大きさで数字を表示する
- 「1段目」「最上段」は特に強調する
- 数字+滑り止め+手すりの3点セットで導入する
さらに、効果を検証するなら:
- 導入前後の事故件数の比較
- 従業員アンケート(気づきや注意力の変化)
- 監視カメラ映像の分析(視線や足の運びの違い)
などを行うことで、現場に根拠ある安全対策として定着させることができます。
■ “数字”は安全を伝えるもう一つの言語
ルールは言葉だけでは伝わりません。
視覚化されたルールが、事故を未然に防ぐ。
それが、「わかる化サイン」が担う本当の役割です。
「1段目」と見て気づき、慎重に足を運ぶ。
「最上段」と知って、しっかりと踏みしめる。
たったその一瞬の判断が、命を守る行動につながるかもしれません。
