かつての物流現場では、ベテランが中心となって口頭で指導し、現場の改善を進めるのが当たり前でした。長年の経験と勘に基づくベテランの判断は現場を支える大きな力であり、その存在感は絶大でした。
しかし近年、このやり方に限界が見え始めています。
働く人の価値観や感じ方、物事の捉え方が大きく変化し、以前よりもずっと複雑になっているのです。
たとえるなら、交通標識の進化のようなものです。かつては信号と横断歩道だけで十分だった時代が、今ではカラー舗装や立て看板、音声信号、英語表示など、多様な人に対応する仕組みへと変わっています。
荷役現場は、それ以上に作業内容・人材構成・リスク要因が複雑化しています。にもかかわらず、対策は従来の延長線上から大きく変わっていないのが現実です。
市場の変化によって現場はただでさえ複雑になり、フォークリフトの増加に伴い労働災害も増加傾向にあります。
そこに自動化・デジタル化といった新しい環境変化が加わり、現場はこれまで以上に高度な対応を求められるようになっています。
そして何よりも、働く人たちの考え方や感じ方の違いが、以前に比べて格段に大きくなっているのではないでしょうか。
現場では、世代や性別、文化の違いが混在し、それぞれの「仕事の常識」が異なる状況になっています。
ベテランが作った安全マニュアルで研修を行っても、聴く側にはリアリティがなく、記憶には残りにくいものです。
指導する側も、受け取り手の感じ方を理解できていないことが多く、そういった認識のズレが日常的な摩擦や不安を生んでいるのです。
こうした環境変化のなかで、従来の“現場任せ”の改善活動だけでは、変化のスピードと複雑さに対応しきれなくなっています。
この構造をしっかりと捉え直さなければ、安全も人材定着も、持続的な改善も難しくなっていくでしょう。
