■ 荷物の増加とフォークリフトの登場

戦後から高度経済成長期にかけて、物流量は急激に増えていきました。
それまで人力中心だった荷役作業は限界を迎え、やがてフォークリフトの導入が進みます。
便利で効率的な機械は、荷物の流れを大きく変えましたが、その一方で新しい課題も生み出しました。

それが、フォークリフトによる事故の増加です。
視界の死角、スピード、重量物の落下――人力では起こらなかったリスクが現場に広がっていきました。

■ 所長が主導した「安全行事」

当時の現場では、所長が休日にスタッフを集め、危険箇所にペンキを塗ったり、トラテープを貼ったりするのが恒例行事というお話を伺いました。
作業後には皆で食事をする。これが一体感を生み、現場のコミュニケーションを深める場にもなっていたそうです。

単なる安全対策にとどまらず、「みんなで危険を共有し、改善していく文化」が自然に根付いたのかもしれません。

■ 行事の限界と変化

しかし、フォークリフトの台数が増えるにつれて、危険箇所はどんどん増加。
表示はすぐに剥がれ、行事の頻度は高まっていきました。

ペンキやテープはすぐに劣化する

・補修の負担が大きい

・技術的に「持続する方法」がなかった

こうして「安全行事」は次第に限界を迎えていきます。

さらに時代が進むと、コンプライアンスの強化により、休日に全員を呼び出すことも難しくなりました。
結果として、安全文化を支えていた取り組みは消えていったのです。

■ 安全文化が失われた現場に残ったもの

全行事がなくなった後に残ったのは、剥がれかけたラインや、口頭での注意に頼る指導でした。
「守る人と守らない人の差」が大きくなり、叱責が増えることで職場の空気はギスギスする。
かつては“みんなで共有していた安全”が、次第に“管理者と作業員の対立”へと変わっていきました

■ 今必要なのは「続く仕組み」

歴史を振り返ればわかるように、フォークリフトを使う現場には安全を大切にする文化がありした。ただし、それを支える印刷技術が未熟だったために、続けられなかったのです。

今、私たちに必要なのは――
「持続できる仕組みとして安全を形にすること」

わかる化サインはそのための手段です。
剥がれず、見やすく、誰もが理解できるサインは、注意喚起を超えて「人と人の不一致」を減らす仕組みになります。

それは、かつての安全行事が果たしていた役割を、より確かな形で現場に残すことにつながります。

まとめ

フォークリフトの普及が安全文化を変え、やがて失わせてしまった。
その歴史を踏まえれば、今求められているのは「もう一度、安全を現場に根付かせる仕組み」です。

次回は、なぜ安心感が人の定着を生み、信頼や効率につながるのか――。
現場に“人が続くこと”の意味を掘り下げていきます。