■ フォークリフトだけが危険ではない、交差点のもう一つのリスク
倉庫内で最も事故が多いのは、フォークリフト同士の接触や歩行者とのニアミスが発生する「交差点」です。
しかし実際には、もう一つ深刻なリスクが潜んでいます。
それが――高齢スタッフや女性スタッフの転倒です。
「リフトを避けようとして足を取られた」
「角で人にぶつかりそうになって転倒した」
「通路の段差に気づかず、荷物を抱えたままつまずいた」
といった“ヒヤリ”は、どの現場でも少なくありません。
多くの倉庫ではベテラン層の比率が高く、加齢による視覚・判断・バランス能力の低下も重なり、
「転倒リスク」は静かに広がっています。
■ 指差呼称が“転倒防止”に効果的な理由
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」にも掲載されている
広島大学大学院保健学研究科(2010年)の実験によれば、
「指差呼称」は、黙読や呼称だけの確認よりも前頭葉の血流が増え、注意力・判断力を高める
ことが確認されています。
つまり、
「止まる・見る・進む」を“声と動作で確認する”ことで、
脳が活性化し、瞬間的な判断精度が上がるのです。
この仕組みは、つまずきや見落としといった転倒リスクの低減にも効果を発揮します。
■ “見ればわかる化”が行動を自然に導く
とはいえ、「指差呼称を徹底してください」と指導するだけでは習慣化しません。
大切なのは、“自然にその動作をしたくなる環境”をつくることです。
例えば、交差点手前の床に大きく「STOP」「左右確認」と明示し、
矢印や足型で動線を誘導すれば、
新人でもベテランでも、自然と足が止まり、確認の動作が生まれます。
サインの大きさ・位置・色のコントラストを工夫することで、
「ここは止まる場所」と脳が瞬時に理解する。
それが、注意や叱責に頼らずに安全を守る“仕組み”です。
■ “叱らずに守れる”現場づくりへ
「危ないから気をつけて!」
「そこは止まれって言ってるだろ!」
こうした声かけは一時的な効果しか生みません。
人がミスをするのは避けられませんが、
ミスをしても安全が守られる仕組みを設計することはできます。
「見ればわかる化サイン」は、まさにそのための道具です。
交差点を“危険な場所”から“安全を見える化できる場所”へ。
叱責よりも、デザインで安全を引き出す――
それが、これからの荷役現場に本当に必要なことではないでしょうか。
