
52億円という数字は、実は海面に突き出た氷山の一角に過ぎません。その下に隠れた『ブランド離れ』という
巨大なリスクこそが、アスクルが直面している真の試練です。
2026年1月28日、オフィス通販大手のアスクルが発表した決算内容は、全ビジネスマン、そして経営層にとって戦慄を覚えるものでした。
昨年10月に発生したランサムウェア攻撃によるシステム障害。その代償として計上された特別損失は、なんと52億1600万円。
しかし、この巨額の数字ですら、実は「氷山の一角」に過ぎないかもしれません。
52億円という数字の「重み」を可視化する
まず、この52億円がどれほどの規模なのか、最新の業績予想から算出してみましょう。
・売上高に対する割合:約 1.0%
・営業利益に対する割合:約 37% 〜 47%
本業の儲けである営業利益の約4割が、一瞬の攻撃で吹き飛んだ計算になります。
必死に積み上げた利益が消滅する。これが現代ビジネスのリアルなリスクです。
決算書には載らない「本当の痛手」:ブランドチェンジの恐怖
実は、今回の件でアスクルが負った最大の傷は、52億円の特損ではなく「顧客のブランドチェンジ」ではないでしょうか。
私自身の周りでも、驚くべき変化が起きています。
これまで「オフィス用品ならアスクル」と疑わずに利用していた企業が、今回のシステム停止をきっかけに他社サービスを検討し始めたのです。
現場の担当者からは、こんな声が聞こえてきます。
「アスクルが止まって困ったけど、他を探してみたら意外と頼めるところはいっぱいあったんだね」
これこそが、最も恐ろしい損失です。
「アスクルしかない」という独占的な信頼(ブランド)が崩れ、「他でもいい」という選択肢を顧客に与えてしまった。 システムは復旧できても、
一度離れた顧客の心を取り戻すには、52億円以上のコストと長い年月が必要になります。
「物理の火災」と「デジタルの攻撃」が教えるもの
物流拠点のトラブルといえば、昨年11月のアマゾン茨木FCでの大規模火災も記憶に新しいところです。
ロボットのバッテリー異常が疑われる「物理的」な火災は、モノを失う大きな損害でした。
しかし、今回のアスクルのような「デジタルの攻撃」は、モノだけでなく、注文という「顧客との接点」そのものを断絶させます。
アマゾンのように拠点を分散して配送を継続できればまだしも、受注システムが完全に止まれば、顧客は瞬時に他社へと流れてしまいます。
「効率化」を極めた現代の物流システムは、一箇所が止まると事業全体がストップするだけでなく、
「顧客を他社へ送り出すきっかけ」すら作ってしまうのです。
私たちが学ぶべき「教訓」とは
・セキュリティは「信頼」の維持費: 52億円は復旧費ですが、失ったシェアを取り戻す広告宣伝費はその比ではありません。
・「代替手段」は常に探されている: 顧客はトラブルを待ってくれません。「いざという時に止まる会社」というレッテルは、最大の競合優位性を失わせます。
・対岸の火事ではない: アスクルのようなトップランナーですら、一瞬で「選ばれない理由」を作ってしまう。これは全てのBtoB企業にとっての教訓です。
まとめ:52億円の先に待つ「真の試練」
今回の決算発表は、サイバー攻撃が企業の1年分の努力を水の泡にする破壊力を持っていることを示しました。
しかし、アスクルの本当の戦いはここからです。


