■ 導入 ― デジタル化が進んでも人が辞めていく現実
近年、物流業界では「デジタル化」「マテハン化」が合言葉のように語られています。
倉庫管理システム(WMS)、自動搬送機器(AGV)、AIによる需要予測…。こうした投資は確かに効率を高め、一時的には作業の負担を軽減してくれます。
しかし現場を見渡せば、人が安定せず、離職が後を絶たない。
「最新システムを導入したのに、なぜ辞めてしまうのか?」――ここに、物流業界が抱える大きな矛盾があります。
■ デジタル化の成果と限界
デジタル化やマテハン機器の導入によって、データは見える化され、作業は効率化されました。
エラーや遅延は数値で把握できるようになり、改善点も洗い出しやすくなったのは事実です。
しかし一方で、それは 「人がなぜ不安を感じ、なぜ辞めていくのか」 までは教えてくれません。
システムは不具合を検知できますが、作業員の心の中までは検知できない。ここに大きな限界があります。
■ 離職の本当の理由
現場スタッフに耳を傾けると、辞める理由は必ずしも給与や待遇だけではありません。
・フォークリフトや台車との接触リスクに対する安全への不安
・「守る人と守らない人がいる」というルールの不公平感
・繰り返される叱責や注意による人間関係の疲弊
つまり、人が現場を去るのは「効率が悪いから」ではなく、安心できないからなのです。
■ 不安が生む悪循環
不安を抱えたまま働けば、当然ミスは増えます。
事故やトラブルが起きれば、管理者はさらに注意を強める。
その結果、職場の雰囲気はギスギスし、また人が辞めていく――。
人が安定しないから新人教育に追われ、採用広告や教育費がかさみ、給与や環境改善に回す余力がなくなる。
こうして「辞める → 採用費用がかさむ → 定着しない」という悪循環が生まれているのです。
■ 本当に必要なのは“人の安心”
人を育てるには、安心感を与えることが欠かせません。
安心できる職場であれば、スタッフは長く勤めてくれます。
長く勤めればスキルが上がり、自然と職場の雰囲気は前向きになります。
その結果、作業は安全で効率的になり、ミスや事故も減少します。
さらにその成果は、荷主からの信頼、納品先からの信頼につながり、企業全体の評価を高めることになります。
つまり、安心の積み重ねが
「定着 → スキル向上 → 職場改善 → 信頼」 という好循環を生み出すのです。
デジタル化やマテハン導入は、この好循環の土台があってこそ、最大限の効果を発揮します。
■ まとめ ― デジタルの前にアナログの基盤を
デジタル化は重要です。しかしそれだけでは離職は止まりません。
まずは 人が安心して働ける仕組みをどう作るか――ここに真剣に向き合うことが、物流企業の将来を左右します。
次回は、フォークリフト普及とともに変化してきた倉庫の安全文化を振り返りながら、
今必要とされる「現場の仕組みづくり」の原点を考えていきます。
