
Amazon倉庫火災のシリーズを書いてきた中で、
「初動の大切さ」「小さな違和感に気づく力」について
多くの反響をいただきました。
火災は熱・匂い・煙という“目に見える異常”があるため、
現場の人が違和感に気づきやすいリスクです。
しかし、今物流が本当に向き合うべきは
“目に見えない火災”=サイバー攻撃(ランサムウェア)
です。
同じ“止まる”リスクでも、火災とサイバー攻撃は広がり方がまったく違います。
■ 火災は「局所」で止まる
火災はどれほど大きくても、基本的には その倉庫のその一角 に限定されます。
・被害が“見える”
・危険区域が限定される
・初動や避難を現場で判断できる
・他拠点で作業を引き継げる
つまり火災は、燃えている場所が見え、被害範囲が局所で済むリスクです。
もちろん深刻な事故ですが、
物流構造としては「物理的な代替」が可能です。
■ サイバー攻撃は「全域」が止まる
一方ランサムウェアは火災と違い、
炎も煙も匂いも出ません。
しかし被害は、火災より圧倒的に広がります。
物流は今、
・受注
・在庫
・WMS
・TMS
・マテハン
・AMR(ロボット)
・取引先との連携(API)
すべてが“情報の一本線”でつながっています。
その入口が止まると、
現場が稼働できても情報が流れないため、倉庫全体が止まります。
火災は倉庫単体の問題。
サイバー攻撃は サプライチェーン全体の問題。
メーカー
→ 倉庫
→ 配送
→ 小売
→ EC
→ 顧客
すべてに影響が及びます。
物流にとっては、
火災よりも“止める力が圧倒的に強い”リスクがサイバー攻撃です。
■ 「小さな異変」は現場ではほとんど共有されない
サイバー攻撃には、
“画面が重い”“データ反映が遅い”といった違和感が出る場合もあります。
しかし実務の現場では──
・忙しくて見逃される
・再起動して終わり
・報告しても意味がないと思われる
・誰が言うべきか曖昧
こうして小さな異変は現場で消えていきます。
火災は見える。
サイバー攻撃は見えない。
ここが最大の違いです。
■ 火災とサイバー攻撃に共通する「初動」の重要性
両者にはたったひとつの共通点があります。
初動が遅れると被害が拡大する。
火災:
匂い/熱/煙 → 気づき → 通報・消火・避難
サイバー:
挙動の違和感/ログイン不調 → 気づき → 情報システム側の初動
違うのは、
火災は現場で完結し、
サイバー攻撃は現場で完結しない
という点です。
■ さらに大きな違い:代替案が「効くかどうか」
火災:
→ 他倉庫で代替できる(物流は流れ続ける)
サイバー攻撃:
→ 代替がほぼ効かない(情報の入口が塞がる)
火災は“物理”が止まる。
サイバーは“情報”が止まる。
情報が止まると、
動線も作業もロボットも配送も、
すべてが紐づいているため一気に止まってしまいます。
■ BCPの必要性:火災とサイバーでは求められる準備が違う
火災では、
物理的なBCP(別倉庫・代替拠点) が有効です。
しかしサイバー攻撃では、
情報BCP が必要になります。
・システム停止時にどう動くか
・紙でどこまで代替できるか
・受注や在庫をどう切り離すか
・外部との連携が止まった時の手順
・サプライチェーン全体での代替ルート
火災よりサイバーの方が、
“動けるようにするための準備”がはるかに複雑 です。
これは現場の誰もが気づきにくいポイントです。
■ 結論:気づける現場と、わかる化された初動・代替案が必要
火災でもサイバー攻撃でも、
最後に現場を守るのは “人の判断” です。
必要なのは、
● 違和感に気づける環境
● 初動が迷わない“わかる化されたルール”
● 代替ルートの“見える化”
● 判断が属人化しない仕組み
技術は便利になっても、
現場が“考えなくても動ける状態”になっていなければ
安全は守れません。
見える火災。
見えない火災(サイバー攻撃)。
どちらも、
現場が「わかる化」されているかどうかで被害が変わる
という点は同じです。

