■ 「思っていた職場と違った」――それが最初のつまずき
新人が辞めてしまう理由として、よく挙げられるのは「仕事がきつい」「人間関係が合わない」といった言葉です。
しかし、本当の原因はもっと根っこの部分にあります。
それは――
「思っていた職場と違った」という“ギャップ”です。
入社前の懇親会やオリエンテーションでは、
「質問しやすい職場です」「安全第一で、みんなが助け合っています」
という言葉を聞き、期待を胸に現場へ向かいます。
ところが、配属された現場はまったく違う。
・忙しそうで誰にも声をかけられない
・注意されても、理由がわからない
・どこに何を置けばいいのかも曖昧
――新人は戸惑い、心の中でこうつぶやきます。
「あれ? 話が違う……」
その違和感が、静かに心を離れさせていくのです。
■ 新人は“やる気がない”わけではない
新人は最初から「辞めよう」と思って働いているわけではありません。
むしろ、真面目で、期待に応えたいと思っている人ほど、ギャップに傷つきやすい。
研修で教わった通りに行動しようとしても、現場では「そんなやり方じゃダメ」と言われる。
「分からないことは先輩に聞きなさい」と言われても、
周囲は忙しく、声をかけるタイミングがつかめない。
誰も悪くないのに、
“聞けない”“頼れない”空気が生まれる。
そして、「この職場には自分の居場所がない」と感じてしまうのです。
■ 「人」が悪いのではなく、「仕組み」がない
こうした離職の背景には、指導者の性格や教育の熱意ではなく、
現場に“共通の見えるルール”がないことが大きく関係しています。
言葉だけで教えようとすれば、人によって伝え方も受け取り方も変わります。
Aさんの言う「危ない」と、Bさんの言う「危ない」は、意味が違うかもしれません。
つまり、現場では“人によるブレ”が新人の混乱を生んでいるのです。
■ 教えなくても伝わる仕組みへ
もし、床や壁に“見てわかるルール”があったらどうでしょう。
・STOPサインの前では必ず一旦停止
・危険マークの位置には刃物を置かない
・パレット置場や待機位置が一目でわかる
新人は、誰かに聞かなくても正しい行動が取れます。
間違えて注意されることもなく、安心して動ける。
この「わかる化サイン」があるだけで、
現場の“当たり前”が明確になり、新人の不安が消えるのです。
■ ギャップを埋めるのは“言葉”ではなく“環境”
新人が求めているのは、優しい言葉よりも、**「間違えない仕組み」**です。
見えるルールがあれば、教える側も教わる側もストレスが減り、
コミュニケーションがスムーズになります。
つまり、“人を育てる”とは、“人を責めずに済む環境を作ること”。
その第一歩が、現場のわかる化です。
■ まとめ
新人が辞めるのは、“合わなかった”からではありません。
「守りたいのに守れない」「頑張っても報われない」という、
“感情のズレ”が積み重なって離職につながるのです。
人が辞めるのではなく、環境が人を手放している。
だからこそ、環境を変えることが必要です。


