AGV(無人搬送車)の普及に伴い、その動力源であるリチウムイオン電池の火災リスクへの対策は、いまや世界的な重要課題となっています。米国や欧州では、法規制と製品規格が密接に連動した非常に厳しい基準が運用されています。

なぜ、これほどまでに厳しいのか?

リチウムイオン電池は、一度「熱暴走(Thermal Runaway)」を起こすと、酸素を自ら放出しながら燃え続けるため、通常の消火器では消せません。そのため、欧米では**「燃えないようにする(BMS/設計)」ことと、「燃えても建物全体を焼かない(消火設備/隔離)」**の両面作戦がとられています。

1. 米国の対策:製品規格と消防コードの連動

米国では、製品そのものの安全性(UL 規格)と、それを設置・運用する建物側の安全基準(NFPA)がセットで運用されています。

  • UL 3100(自動移動プラットフォーム用安全規格): AGV や AMR(自律走行搬送ロボット)専用の安全規格です。バッテリーマネジメントシステム(BMS)の異常監視、熱暴走の防止、火災が発生しても筐体外に火を広げないための設計が求められます。
  • NFPA 855(エネルギー蓄積システムの設置基準): 全米消防協会が策定した基準で、一定以上の容量を持つバッテリーシステムの設置場所や離隔距離、換気設備、スプリンクラーの設置密度などを細かく規定しています。2026年版では、大規模火災試験(UL 9540A)に基づいたデータ提出がより重視されています。
  • 消防局(AHJ)の権限: 現地の消防当局(AHJ)が、倉庫の消火設備がバッテリー火災に対応可能かを厳しく審査します。対応できない場合、運用許可が下りないこともあります。

2. 欧州(EU)の対策:包括的な「新バッテリー規制」

EU では、2023年に施行された「欧州バッテリー規則(Regulation (EU) 2023/1542)」により、製品寿命の全ステージで安全性が義務化されました。

  • デジタル・バッテリーパスポート(2027年〜): 2kWh以上の産業用バッテリーには、製造履歴、化学組成、劣化状態などを記録したパスポートの付与が義務付けられます。これにより、火災リスクが高い老朽化した個体を確実に把握・排除します。
  • EN ISO 3691-4AGVの安全規格): 欧州で AGV を運用する際の主要規格です。バッテリーの火災リスクを含む「リスクアセスメント」を製造者が行うことを義務付けており、設計段階での安全性確保が CE マーキング(欧州販売許可)の必須条件となります。
  • 防火区画の徹底: 倉庫設計において、充電エリアを他の保管エリアから耐火壁で隔離する「コンパートメント化」が推奨・義務化される傾向にあります。

3. 共通する具体的な技術・運用対策

米欧で共通して重視されている実務的な対策は以下の通りです。

対策項目具体的な内容
BMS による常時監視セルごとの電圧・温度を監視し、異常検知時に強制遮断する冗長性の確保。
熱暴走の伝播防止1つのセルが発火しても、隣のセルに熱が移らないような断熱材やセルの配置。
専用スプリンクラーバッテリー火災は冷却が重要なため、通常より大量の水を放出する ESFR スプリンクラー等の採用。
充電エリアの制限出入口から一定距離(例:3m 以上)離し、可燃物から隔離された非燃焼材の上で充電する。

海外のこうした厳格な基準は、日本の現場にとっても決して他人事ではありません。まずは世界基準の「今」を知ることが、自社の現場を守る第一歩となります。